ラ ポルト(La PORTE) 

ラ ポルト(La PORTE)  オーナーインタビュー

Interview

 

La PORTE(ラポルト)|橋本敦史シェフ インタビュー

下積みと“続けること”がつくる一皿

 

 

近年、どの業界でも「早くデビューする」「下積みは必要ない」という価値観が広がっています。
美容業界でもデビューの早期化が進み、飲食業ではインフルエンサーの発信によって
“皿洗いに意味はない” といった空気が生まれることもあります。

もちろん、どちらが正しいという話ではありません。
ただ、長く現場で積み上げてきた人の言葉には、時代を問わず響くものがある——
そう感じさせてくれたのが「フレンチごはん La PORTE」橋本敦史シェフです。

お店の穏やかな空気とは対照的に、シェフの歩んできた道のりは
丁寧な積み重ねと“続ける力”に満ちていました。
ここでは、その原点と仕事観をうかがいます。

 

“箸で食べるフレンチ”はどう生まれましたか?

橋本シェフ:
うちは前菜が「小鉢9種」という構成なんですが、皆さん自然と箸を使うんです。
フレンチだからといって身構えなくていい、というか。お客さまの様子を見ているうちに、
「ラポルトはこのくらい力の抜けた空気感がちょうどいいな」と感じるようになりました。

家族でも、お一人でも、気軽に楽しめる場所にしたい。
そう考えたときに、“箸で食べるフレンチ”というスタイルが自分の中でしっくりきたんです。

 

 

フランスでの6年間の修行は、どんな日々でしたか?

橋本シェフ:
「フランスで6年」と言うと、すごくストイックに聞こえるみたいなんですが……
本人としては、けっこう“遊びみたいなものです”と言っているくらいで(笑)。

もちろん、いろいろなお店で働きましたが、
感覚としては「技術を叩き込まれた」というより、
フランスの文化や、食が生活に溶け込んでいる空気に浸かった時間でした。
食材の扱い方や、食卓の雰囲気。そういった“空気感”のほうが自分には残っています。

 

 

では、修行期間中にきつかった時期などはなかったんですか?

橋本シェフ:
正直いちばんきつかったのは、フランスではなく日本での最初の2年ですね。
ほとんど皿洗いで、怒号も飛ぶし、鍋が飛んでくるような世界。

そこで「仕事の厳しさ」を体で覚えました。
あの2年がなかったら、途中でやめていたと思います。
振り返ると、今の自分があるのはあの時期のおかげだと思っていますし、感謝しています。

 

 

フレンチ以外に、イタリアン・カレー・パン屋でも経験を積まれているんですね。

橋本シェフ:
もともと、いろいろ経験してみたいタイプなんです(笑)。
でも実際にやってみると、ジャンルは違っても料理は全部つながっていると感じました。

イタリアンで身につく「素材を活かすやわらかさ」、
カレー店で学ぶ「スパイスの使い方」、
パン屋で体感する「発酵のニュアンス」。

そういった要素が少しずつ混ざり合って、
今の自分なりの“やわらかいフレンチ”になっている気がします。

 

季節が変わって食材が変わると“テンション”が上がりますか?

橋本シェフ:
季節が変わると「この時期が来ましたね!」と気持ちが高ぶる、という話をよく聞きますが、僕はあまりそういうタイプではなくて。

大事なのは「この食材をどう美味しくするか」。
そこに一番気持ちが向いているんです。

例えば豚肉ひとつとっても、部位や状態によって最適な火入れ温度はまったく違います。
もちろん、これは豚に限った話ではなくて、あらゆる食材がその時々で変わるんです。
同じレシピでも通用しないことが多くて、最終的には経験の積み重ねで判断するしかない世界なんですよね。

“旬の食材”に心が躍るというよりは、
「どういう火入れで」「どういう合わせ方なら」一番おいしく届けられるか。
そこに僕自身のモチベーションがあります。

 

 

“仕込み9割”という言葉が、とても印象に残っています。

橋本シェフ:
営業の時間は、あくまで「最後の仕上げ」にすぎません。
本当に大事なのは、その前の仕込みの段階です。

手を抜こうと思えば、いくらでも抜けてしまいます。
でも、それは必ずお客様に伝わると思っています。
だから定休日はあるんですけど、その時間のほとんどが仕込みに使われています。
定休日の日も、朝から仕込みに入ることが多くて、
今日は朝6時から始めてるけど、定休日だからそれでも早いです19時くらいにはあがります。
料理人の仕事は、休みの日のほうが忙しいくらいかもしれませんね(笑)。

それでも続けてこられたのは、「お客様が楽しみに来てくれている」ことが分かっているから。
期待して来てくださる以上、1回たりとも手は抜けないなと思っています。

 

 

 

これからの目標について教えてください。

橋本シェフ:
お店を増やすつもりはありません。
有難いことに街中に出してほしい、と声をかけていただくこともありますが、
今はこの場所で、目の前のお客様にきちんと向き合いたいという気持ちが強いですね。

目の前のお客様に、最高の一皿を出し続けること。
それが自分のやるべきことだと思っています。

もし将来、「ここで学びたい」と言ってくれる若い子が来てくれたら、
ちゃんと教えられる環境はつくってあげたいと思っています。
もし機会があれば、自分が積み上げてきたもの少しでも渡していけたらうれしいです。

 

 

派手なことはしないけれど、手を抜かず、続けることをやめない。
La PORTE(ラポルト)の一皿には、そんな橋本シェフの静かな矜持がつまっていました!